【手術解説】全人工肘関節置換術とは
全人工肘関節置換術とは、どのような手術なのでしょうか。全人工肘関節置換術の適応、手術 の詳細、術後の合併症、術後のリハビリテーションと日常生活についてご紹介します。
全人工肘関節置換術
全人工肘関節置換術とは、肘関節の変形や破壊などによって、肘関節の疼痛や可動域制限が 生じた場合、肘関節を部分的に削り取り、人工関節に置き換える手術のことを示します。 肘関節の屈曲制限が生じると、洗顔や食事などの日常生活に支障をきたします。 口や顔まで手が届かなくなることで、動作が難しくなってしまうのです。
全人工肘関節置換術は、肘関節の可動域改善、安定性向上、痛みの除去による日常生活再獲 得を目
的に行われる手術です。
全人工肘関節置換術の適応
進行性の関節リウマチ、外傷後関節炎、変形性関節症、高齢者に多い固定不可能な骨折(上腕 骨遠位端粉砕骨折など)が主な適応となります。
また、血友病関節症、若年性特発性関節炎、原発性または転移性骨腫瘍も適応となります。 最も一般的な適応は関節リウマチですが、近年、関節リウマチに対して行われる全人工肘関節 置換術の年間実施率は低下しています(2019年の調査より)。
これは、抗リウマチ薬の有効性によるものと考えられています。
全人工肘関節置換術の手術
人工肘関節は、表面置換型と半拘束型に分けられます。
表面置換型は上腕骨コンポーネントと尺骨コンポーネント間に連結がないものを示します。 半拘束型は、連結はありますが蝶番部に遊びを持たせたものを示します。
表面置換型は、拘束性が少なく人工関節の緩みが生じにくい反面、安定性は筋・筋膜や靭帯な どの南部組織に依存しているため、人工関節そのものの安定性は少ないのが特徴です。 一方、半拘束型は安定性が高く、骨欠損が大きい症例や軟部組織が脆弱な症例にも実施するこ とが可能ですが、人工関節の緩みをきたすリスクが比較的高いのが特徴です。
表面置換型は骨欠損が少ない症例に適応があり、半拘束型は骨欠損が大きい例に適応になる ことが多いとされています。
全人工肘関節置換術の合併症
全人工肘関節置換術の合併症として再手術が必要となるものは、人工関節周囲感染症、無菌性 の緩み、人工関節周囲骨折です。
また、合併症になりやすい特徴として挙げられるリスクには、若い年齢であること、肥満症、喫 煙、および重度な既存疾患を持っている場合があります。
若年者に対する全人工肘関節置換術の成績を調べた研究によると、中期的な成績は概ね良好 ですが、長期耐用のためのさまざまな工夫や患者さんへの教育が重要で、再置換も念頭に置い た長期の経過観察が必要であることを報告しています。
人工関節周囲感染症
現代の外科技術と抗生物質の予防法を用いても、感染は全人工肘関節置換術の合併症の1つ であり、報告されている割合は1%〜12.5%です。 肘は、皮膚から骨までの軟部組織の被覆が無いことから、感染しやすいと言われています。 また、感染症のリスク増加として、糖尿病の併存が挙げられます。
無菌性の緩み
無菌性の緩みも、全人工肘関節再置換術の原因となる要因の1つです。 人間の骨は、負荷が増えると時間の経過と共に再構築され、強くなる仕組みです。 逆に、負荷が減ると刺激が不足することで骨密度が低くなり、弱くなります。 全人工肘関節置換術の非解剖学的な力の伝達により、上腕骨顆と肘頭で進行性の骨吸収が生 じます。 この骨吸収が生じると、ステムの緩み、ポリエチレンの摩耗、故障に繋がります。
人工関節周囲骨折
人工関節周囲骨折は、全人工肘関節再置換術において、3番目に多い要因です。 上肢は骨が小さく、骨量が少ないため、骨欠損の管理が重要となります。 尺骨と上腕骨の両方の残存骨量は限られているため、骨折が発生した場合、修正手術は困難な 場合があります。
残存骨量が不十分、特に骨粗鬆症の患者さんでは一般的に多いのが現実です。
全人工肘関節置換術のリハビリの日常生活機能的ROM(日常生活で必要な関節可動域)とされる伸展−30°から屈曲120°〜130°、前腕回内 外各々50°が目標となります。
タイピングのために必要な前腕回内65°、スマホ操作に必要な屈曲130°など、近年はこれまで以 上の関節可動域が要求されることが増えており、患者さん個人の生活動作を見据えた 目標設定が必要となります。
表面置換型人工関節では、10°〜20°の伸展制限をきたすことが多いと言われています。
術翌日〜術後2週間
外固定期間中であり、浮腫予防として高挙位保持やポジショニングの指導を行います。 高挙位保持は可能な範囲で時間を決めて意識的に行うことが必要です。 長時間肩関節が内転・内旋位になると人工関節に内反負荷がかかるため、日中は中間にのポ ジションを心がけるようにします。
肩関節と手指の自動・他動運動を行い、非固定関節の拘縮予防と浮腫軽減に努めます。
術後2〜3週
リハビリ時のみ外固定を外し、皮膚の発赤や熱感などの異常所見を確認します。 訓練に先立って、浮腫予防に肘関節周囲の逆行性マッサージと、疼痛による防御性収縮予防に 十分なリラクゼーションを行います。
肘関節屈曲運動は背臥位、肩関節を屈曲位とし、前腕の重みを利用して愛護的な自動解除運 動を行います。
伸展運動は上腕部にクッションを設置し、肩関節と肘関節の位置を同じ高さにします。 屈曲同様に前腕の重みを利用しつつ、軽い他動運動を加えていきます。 伸展・屈曲運動は上腕軸と前腕軸が直線上になること、内外反に緩みがないかを意識しながら 行います。
緩みを感じた場合は可動域の獲得よりも支持性の獲得を優先した、より慎重な訓練への変更も 視野に入れて行います。 前腕回内外運動は、肘関節90°屈曲位で、前腕近位骨幹部と遠位橈尺関節部を把持し、骨間 膜・遠位橈尺関節に対するモビライゼーションを意識して自動介助運動を行います。 手関節屈筋と伸筋の軽負荷から筋力増強運動を開始します。
術後3〜4週
日中は外固定を外し、夜間のみ固定します。 自動屈曲・伸展運動は除重力位から開始し、屈筋・伸筋の筋力増強を測ります。 一般的には積極的な他動運動を開始します。
獲得可動域が良好な患者さんや、緩みを感じる患者さんでは、ヒンジ付き肘関節装具の装着も 考慮する必要があります。
術後4週〜2ヶ月
肘伸展運動は抗重力位で他動伸展させ、その位置で保持する他動伸展自動保持から開始し、 自動運動・抵抗運動へ移行していきます。
肘関節屈筋の等尺性運動による筋力増強運動も開始します。
リーチ動作練習、机上や壁を使用した閉鎖的運動連鎖から開放性運動連鎖へ進めます。 その後、手の使用を許可し、軽負荷での日常生活動作(食事や洗顔、更衣)の練習も進めていき ます。
リーチ運動は、回内位では肘関節内反力が加わるため、回外位で行うように指導します。
術後2ヶ月から3ヶ月
肘伸筋の筋力増強訓練を抵抗下にて積極的に行います。 伸展筋力の向上は肘関節を安定させるためにも重要です。
日常生活においても徐々に負荷量を増やしていきますが、フライパンなどを持ち上げる際には肘 に内反力が加わるため注意が必要です。
日常生活において、肘関節に負担のかかる肢位や動作に慣れてしまわないように指導し、必要 でれば自助具の使用も勧めます。
術後3ヶ月以降
修復した軟部組織の強度が高くなる時期であるため、痛みのない範囲で前腕中間位・回内位で のリーチ動作や包丁動作、フライパン把持などを開始します。
しかし、4〜5㎏以上の重量物の運搬や持ち上げ、体重をかけて手をつく動作は禁忌です。 日常生活で上肢を使用する際は、術側および非術側の役割を明確にする必要があります。
〈参考文献〉
1) 大久保宏貴.人工肘関節置換術とリハビリテーション.Jpn J Rehabil Med 2017;54:186-190 2)Jae-Man Kwak.Total Elbow Arthroplasty: Clinical Outcomes, Complications, and Revision Surgery.Clinics in Orthopedic Surgery • Vol. 11, No. 4, 2019
3)池田純.45歳以下の若年者に対する人工肘関節全置換術の中期成績.日本肘関節学会誌 23(2)2016
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