【手術解説】人工膝単顆置換術とは
人工膝単顆置換術とは、どのような手術なのでしょうか。人工膝単顆置換術の適応、手術の詳細、術後の合併症、術後のリハビリと日常生活 、術後の予後についてご紹介します。
人工膝単顆置換術
高齢者にとって膝関節痛は、日常生活に支障をきたす耐え難い要因の1つです。超高齢化社会の今、変形性膝関節症に罹患している患者さんは増加しています。
日本人における変形性膝関節症の大部分は内側の大腿脛骨関節の障害が強い内側型です。外側大腿脛骨関節が正常に近い状態でも、内側型変形性膝関節症の末期の患者さんに対しては全人工膝関節置換術が行われることが多いです。
一方、変形性膝関節症による膝の変形が一部分(内側もしくは外側)のみに限局している場合に、その一部分だけを人工関節に置き換える手術があります。その手術が「人工膝単顆置換術」です。
人工膝単顆置換術の適応
変形性膝関節症の中でも、膝全体がすり減って変形が進行している末期の場合や、炎症性疾患(関節リウマチや偽痛風など)に対しては、全人工膝関節置換術が適応されます。
一方、人工膝単顆置換術の適応は、前十字靭帯の機能が十分な場合、膝の伸展に制限がない場合、膝の屈曲角度が90°以上の場合、炎症性疾患でない場合が適応となります。
人工膝単顆置換術の手技
前述の通り、人工膝単顆置換術は、膝の変形が一部分(内側もしくは外側)のみに限局している場合に、その一部分だけを人工関節に置き換える手術です。
人工膝単顆置換術は、片側顆部や前・後十字靭帯を温存し、膝関節を生理的に近い状態のまま保持するため、膝関節機能の回復を図る手術として合理的と言えます。
また、両顆部、前十字靭帯、場合によっては後十字靭帯の切除が必須な全人工膝関節置換術と比較しても、侵襲ははるかに少ないのが特徴です。
さらに、人工膝単顆置換術を最小侵襲手技で行うことで、侵襲はより少なくなります。そのため、基礎疾患のある患者さんや超高齢者の方への適応が拡大されつつあります。
人工膝単顆置換術の最小侵襲手技とは
最小侵襲手技とは、皮膚切開の範囲をできるだけ小さくして、筋肉や靭帯などへの負担をできる限り最小限にする手術手技のことを言います。
術後疼痛の緩和、リハビリテーション期間の短縮、美容的効果などの利点があります。
膝の傷跡が少しでも目立たないよう、痛みも最小限で、早く回復できるようにすることを目的とした手技のことを示します。
人工膝単顆置換術後の合併症
人工膝単顆置換術は、全人工関節置換術と比べて出血量が少なく、回復が早く、感染症などの合併症の発生率が低いという特徴があります。しかし、合併症の可能性が全く無いというわけではありません。骨粗症状が著しい場合は、部品周囲骨折のリスクがあります。
また、太り過ぎや使い過ぎの場合、骨融解やゆるみ、部品破損のリスクもあります。人工膝単価置換術に限ってではありませんが、人工物を体内に挿入する手術であるため、感染症等の可能性もあります。
人工単顆置換術後のリハビリと日常生活
人工単顆置換術におけるリハビリと、日常生活での注意点についてご紹介します。人工単顆置換術におけるリハビリテーションは、術前と術後に行われます。
術前のリハビリテーション
術前のリハビリでは評価を中心に行います。膝関節可動域、大腿四頭筋・ハムストリングスの徒手筋力テスト、日常生活能力の評価(Barthel Index)、日本整形外科学会膝OA機能評価判定基準などを測定します。
術後のリハビリテーション
術後1日目から、疼痛を生じない範囲で、膝の自動可動域訓練および下肢伸展挙上(SLR)と座位膝関節自動運動を中心とした筋力増強訓練を行います。同時に、平行棒、四輪型歩行器や杖を使用しながら全荷重での歩行訓練も開始します。
また、術後3日まで大腿四頭筋・ハムストリングスの等尺性収縮運動を積極的に行います。他動可動域訓練は術後3日から行い、階段昇降練習や起居動作などのADL動作訓練は術後7日目から行います。
日常生活の注意点
日本独特の生活習慣である正座を含め、畳や床などで和式の生活をしている高齢者の方は、以前と同じような慣れ親しんだ生活様式で日常生活を送ることも少なからず可能です。
しかし、膝を深く曲げることは、人工関節の脱転や早期摩耗のリスクもあるため、推奨されていません。
人工膝単顆置換術の予後
Dai(2020)らは、人工膝単顆置換術を受けた患者さんに対し、手術後の日常生活において、「人工膝関節のことを忘れられた」つまり、「術後の違和感がなくなり自然に近づいた」状態になるまでの期間を、Forgotten Joint Score(FJS)というスコアを用いて調査し、報告しています。
FJSは、点数が高くなる程「忘れている」状態を表します。その報告によると、術後1ヶ月時点でFJSが最低点、36ヶ月で最高点であったことを示しています。
FJSの平均値は12ヶ月まで改善を続け、24ヶ月と36ヶ月の平均値よりわずかに低かったという結果も示されています。
また、年齢(60歳未満)であることと、手術前の変形性膝関節症罹患期間に関してはFJSと負の相関があり、BMI値とFJSは正の相関であったことも報告しています。
つまり言い換えると、術後1ヶ月の時点では人工関節の違和感は強く、術後36ヶ月の時点では人工関節を大分忘れている状態になると言えます。術後12ヶ月までは順調な改善を認めますが、それ以降は大幅な改善は無く、少しずつ改善していく経過をたどると解釈できます。
60歳未満の人は60歳以上の人と比べるとFJSが低い、すなわち改善が乏しいと言えます。手術前の罹患期間が長いほどFJSが低い、すなわち改善が乏しいことを示しています。BMI値が良好なほどFJSが高い、すなわち改善しやすいことを表しています。
まとめると、①術後1年〜3年の経過を経て改善していく、②60歳未満だと改善しやすい、③手術前の変形性膝関節症の罹患期間が長いと改善しにくい、③BMI値が悪いと改善しにくいと言えます。
〈参考文献〉
1) 千明譲.UKAに対するリハビリテーション .理学療法 臨床・研究・教育 16:41-45.2009
2)山岡和弘. 当院におけるMIS-UKAの術後短期成績.整形外科と災害外科.60:(2)263-265.2011
3)Yi-ke Dai.et.Joint Awareness after Unicompartmental Knee Arthroplasty Evaluated with the Forgotten Joint Score. Orthopaedoc Surgery volume 12 number1.february,2020
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